
神輿は1931(昭和6)年製。高さ4メートル、幅3メートル、重さ2・3トン。屋根に重さ60キロの鳳凰(ほうおう)が乗る。「先代は海に流されてしまったので、より大きな神輿を造ったんだよ」。同神社役員の釼持廣次さん(86)は説明した。
菅原道真公を祭る同神社の神輿渡業は、道真公の誕生日(4月25日)に催す例大祭。その御霊(みたま)を神輿に移して町を練り歩き、加護を願う伝統行事だ。
かつては国道1号から海岸を経て、現在のJR国府津駅近くまでを往復した。戦後は台車に載せ、牛に引かせた年もあったが間もなく途絶えた。「神輿を担げる氏子が減ったし、国道1号の交通量が急増したからね」。もう一人の役員、古谷幸雄さん(86)は振り返った。
2人とも担いだ経験はない。しかし、白装束の担ぎ手が神輿を何重にも取り巻く様は今でも覚えている。「最低60人いないと担げない。交代を含めると200人は必要だ」。2人は目を合わせてうなずいた。「勇ましくもむのではなく、本来は静々と巡行する」
元日に必ず神輿を収めた倉庫の扉を開けることから、みこし保存会メンバーが「担がせて」と要望を重ねていた。
この日は、約220人が同神社に集まり、法被姿で神輿を担ぎ出し、神社横の市道約150メートルを往復した。「こんな立派な神輿があったなんて」と沿道の住民。半世紀余を経て現れた伝統に感慨深げな様子だった。